「家族」と「食べる」を考える

タベル マガジン

「家族」と「食べる」を考える

タベル マガジンとは?

囲って、向き合って、楽しんで。
家族が笑顔で集まる場所「テーブル」で
美味しいお料理を「タベル」。
この日常の風景をもっと豊かにできるよう、
家族と食についての情報をまとめた
ウェブマガジンです。

お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さんが引っ越した先は、新宿区のはずれにある木造二階建ての一軒家。でもちょっと変わっているのは、1階に大家さんである高齢の女性が住んでいること−−。
上品でお茶目な大家さんとの日常をつづったエッセイマンガ、『大家さんと僕』は大ヒット! くすりと笑って、まさかの展開に驚かされて、いつのまにか涙がにじんで......、心をやさしく動かしてくれる作品です。

1階に大家さん、2階に矢部さん。家族ではないけれど、まるで家族のような距離感で過ごした9年間のこと、大家さんとの日々のなかで生まれた思いについてお話しを伺いました。

お金を払って、実家に住んでいるみたい?

元は二世帯住宅だった一戸建ては、一人暮らしには大きすぎるし、さみしい。そんな経緯から、2階を賃貸に出した大家さん。矢部さんは何代目かの賃借人になり、9年間にわたって大家さんと一つ屋根の下で暮らしました。

「最初は、大家さんとの距離感に戸惑いもありました。帰宅して電気をつけると『おかえりなさい』って電話があったり、干しっぱなしだった洗濯物が畳んで部屋に置いてあったりするんです」

「今って、大家さんに会わなくても借りられる物件のほうが多いし、そのほうがラクだと僕も思っていましたし......。だから、入居したてのころは、いつも見られている感じがするというか、お金を払って実家に住んでるみたいだなって。失敗したかなーなんて思ってたんです」

でも、その迷いは数カ月で消えていった、といいます。

「家賃は振込ではなく、"手渡し"なんです。毎月、家賃をお持ちすると、お茶に誘われて。お茶しながらいろいろおしゃべりしていたら、なんてチャーミングでおもしろい方なんだろう、と。それに僕のためを思っていろいろしてくださっていることも改めて感じました。ときには家電の簡単な修理を頼まれたりとか、高いところの荷物を下ろすお手伝いをしたりもして、そういうこともすごくうれしかったんですよね。僕、頼られることがあんまりないから(笑)」

大家さんとの食事は季節を感じながらゆったり

作品のなかでは、大家さんとの食事シーンもたくさん登場します。大家さんとの食事は、いつもゆったり。おしゃべりしながら1品1品を味わい、食後はカフェでお茶をするのがお決まりのコースだったそう。

「大家さんはとってもユーモアがあって、お話がすごくおもしろいんです。記憶力がめちゃくちゃよくて、昔のこともいろいろ教えてくれる。そういうことを聞きながら食事ができるのは、本当に楽しかったですね」と振り返ります。

「ただ、ちょっと困ったのは、僕のことをすごく若いと思っていて、『いっぱい食べなさい』って、たくさん注文してくれること。大家さんが食べきれない分も『これも半分食べて』って。僕もけっこういい歳で胃もたれもするし、もともと少食なんですけどね。大家さんとの食事のときは、朝食抜きで大食いの準備(笑)。僕が食べているのを見るのが、大家さん、とっても楽しいみたいでしたね」

元気にモリモリ食べる姿は、一緒に食事をする人も幸せな気持ちにさせてくれるもの。若い人におなかいっぱいに食べさせてあげたいという大家さんの思い、大家さんの気持ちにこたえようといつも以上に頑張って食べる矢部さん。あたたかくて、ちょっぴりおかしい、ほのぼのとしたテーブルが目に浮かぶようです。

撮影/千葉 充、取材・文/浦上藍子

後編に続く

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