「家族」と「食べる」を考える

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氷山で流しそうめん!? 思わず二度見してしまう壮大すぎる光景。
南極で働く観測隊にとって、"食"はいちばんの楽しみと言っても過言ではないそう。だから、楽しく!おいしく!サプライズも忘れずに! そんな南極で食事を1年にわたって支えたのが調理隊員の渡貫淳子さん。「料理が好き」という思いが連れていってくれた南極での食について、お話を伺いました。

なぜ南極へ?1枚の写真からつながった、南極への挑戦

調理師専門学校を卒業後、調理技術を教えるスタッフとして働いていた渡貫さん。結婚、出産で退職後も、ずっと料理の仕事を続けてきた料理人です。そんな渡貫さんを南極へと導いたのは、お子さんが小さいときにふと目にした1枚の写真だったと言います。

「ある日、朝刊を開いたら、真っ白い南極の大地に鮮やかな色の防寒着を着た女性の写真が目に飛び込んできたんです。非現実的な光景に大きな衝撃を受けて、ただただ圧倒されたことを覚えています。もちろん自分が南極に行けるなんて思いもしないから、憧れというのとも違うし、行動を起こしたわけでもありませんが......ずっと心に残っていました」

「南極への気持ちを確かにしてくれたのは、それから6〜7年後に映画『南極料理人』を観たこと。南極に私のできる仕事がある! 私もこの人たちにごはんを作ってあげたい!って思っちゃった(笑)」

「南極に行く!」

荒唐無稽のように思えるチャレンジを、渡貫さんは計画的に着々と実行。ついに3回目の応募で調理隊員として採用されます。

▲南極・昭和基地の看板の前にて

「私の専門は和食ですが、南極では、和食だけでなく中華も洋食もエスニックも作れることが大事。だって南極にはレストランもコンビニもありませんから。一緒に採用されたフレンチのシェフが、すでに1度南極観測隊に派遣されている方だったので心強かったですね」

食材は、隊員30人が1年で食べる量を計算し、1年分を発注。

▲倉庫に積まれた大量の食材

「南極についたら、もう食材の補給はできません。歴代の発注書も参考にしながら、野菜や肉、魚などの生鮮食品や調味料、お酒やお菓子などの嗜好品にいたるまで、30トンもの食材を積み込みました」

そしていよいよ出発の日。渡貫さんはいたっていつも通りの朝を過ごし、1人で空港に向かったそう。

「だって家族に見送られたら、きっと心が日本に残ってしまうから。夫と息子を見送って、家のなかを片づけて。そして、気持ちを切り替えてリュックを背負い、出発しました」

南極での食事の役割は、"心の栄養"になること

晴れて南極料理人となった渡貫さん。2人の調理隊員が交代でキッチンにたち、三食に加え、夜間の観測がある隊員にむけての夜食を作ります。

▲「しらせ」で調理する渡貫さんたち

「南極での料理は、栄養をとるためというより、心をすこやかに保つために必要とされていた、と思います。隊員たちは、娯楽のない南極の地で1年間の任務にあたります。そうした環境では、毎回の食事が大きな楽しみ。仕事の途中に、お昼の献立ボードをチェックしにくる方もいましたね」

▲隊員の皆さんから好評だった「お子様ランチ」風のワンプレート

日本のような四季があまり感じられない環境だからこそ、季節の行事も大事にしていたとか。お正月、節分、桃の節句にお花見! お正月には餅つきをしたり、桃の節句にはちらし寿司も作ったり、お花見は食堂にブルーシートを敷いて、花紙で桜の花をつくって、宴会気分を味わったそう。 渡貫さんは「まるで文化祭みたいですよね」と笑います。

▲渡貫さんが作った、華やかなお正月の食卓

「毎月1回、お誕生日会も開きましたし、土曜日の夜は『卓飯』っていって、ホットプレートお好み焼きや焼肉、お鍋など、みんなでワイワイつつけるメニューにしたりも。そうそう、辺り一面真っ白な氷山で流しそうめんを楽しんだこともありました」

▲氷山で行う流しそうめん!スケールの大きさに圧倒されます

食は心踊るエンターテインメント! これがなくちゃ頑張れない。さまざまな食を作り、演出してきた渡貫さんは、隊員のみなさんの食への向き合い方を見るたびに、そう実感したとか。
「卓飯」や季節を感じられる行事食など、南極の食卓には、"食べる"をとことん楽しむヒントが詰まっているようです。

また、同時に家族と離れ、極限の環境のなかで任務につく隊員のみなさんにとって、食卓を囲む時間がどれほどの癒しであったかも伝わってきます。同じものを味わい、他愛もないおしゃべりに興じて、疲れをリフレッシュする。隊員の方々の屈託のない笑顔が想像できるエピソードに、改めて"食のチカラ"を感じます。

例えば、いつもの盛り付けをワンプレートに変えてみる、土曜日はホットプレートの日などテーマを決めてみる。ちょっとした工夫をプラスするだけでも、ふだんの食卓をエンターテインメントに変えることができるはず。
家族や仲間と一緒に、"心の栄養にもなる食卓"を囲んでみてはいかがでしょうか? もっともっと心の距離が近くなるに違いありません。

次回は、南極クッキングの、驚きのエコ調理法について、さらに1年間食卓をともにした隊員の特別な絆について、お話を伺います!

後編も読む

写真提供/渡貫淳子さん
撮影/対馬綾乃(渡貫さん)、取材・文/浦上藍子

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